OHYA CHEMICALS CO.,LTD  01.07.03

色の指定

塗装の色を決めている顔料は、塗料の原料として塗料に混入される段階ですでにロットなどによる発色のばらつきがあり、また光源によって発色が違ううえ、塗装後にも経年変化します。これに加え塗装膜中の樹脂の変化を考え合わせると、仮に良好な条件で塗装サンプルを保管しておいても色は絶えず変化を続けるといえます。(たとえば数十年が経過すると、塗装直後の色を正確に再現するのは不可能です。)

分光を利用した測色機という機械も存在しますが、高価であることに加え人の目(特に2つの色を比較する能力)を満足させる確かさが得られません。(これには技術的な理由がありますがここでは述べません。)

このような事情から塗装する色を正確に指定することは場合により困難なことがあります。特に長期間に渡って呼び名や記号、番号のみで色の指定を正確に伝達するような基盤を整えるにはその色を維持するための規格や人的組織が必要で、容易ではありません。ここでは色の精度の要求の段階に応じて整理してみました。

 

水準1.長期間に渡って生産される製品の色のばらつきを極力抑える必要がある場合。またはデルターEスター値など色差数値で色の差を厳しく規制する場合。

変色・褪色の起こりにくい塗料を選択して、その塗料のみ使用するようにする。(1つのメーカー、1つの銘柄に限り、使用する顔料(原色)を固定する。)色の調整は乾燥した冷暗所に保存した色見本を基準として行ない、色見本自身も劣化による変化を考え定期的に更新する。(このような管理は極めて手間がかかるので、この方法をとる塗装色規格では当然、管理色の数は少なくなります。)

 

水準2.短期間に渡って生産される製品の色のばらつきを極力押さえる必要がある場合。

水準1の方法を取っても良いですが、塗料の総必要量が明らかにはっきりしている場合は1度に塗料を製造してしまい、これを配布します。変褪色の起こりにくい塗料を選ぶのはもちろんです。ただし予期せぬ追加生産に備えるにはメーカーと銘柄の明記された色見本の保管は最低条件です。

 

水準3.水準1もしくは2の方法がどうしてもとれないが、その中で色を極力正確にしたい場合。

まず少量の塗料を作ってしまい、この塗料からメーカーと銘柄の明記された色見本を必要数作って配布します。実際の生産に用いる塗料はこの色見本を基準として、必要の度に必要量だけ調色(塗料の色を調整すること)して作れます。ただし色見本の更新や再配布がままならない場合には生産期間が長くなるにしたがって問題(たとえば色見本の変褪色)が増えます。メーカーと銘柄が同じでもまれに調色に使用する原色が異なるケースもあります。したがって水準1、2の要求レベルは一般には叶いません。

また、色の精度要求によってはメーカや銘柄を限定しなくても良い場合もあります。

ただし、この場合に注意するのは、天然光の下で近い色を発色していても、蛍光灯などの下では発色が全然異なる場合があるということです(とくに黄色や赤色の顔料を用いる場合に多く起こります。)。違った種類の顔料の組み合わせでも天然光の下で近い色を出すことが可能な場合は多く、メーカが違えばまず違うと考えなければなりません。この場合、波長の分布が天然光と異なる光の下で色が違うのはむしろ当然です。塗装された製品の使用者がどんな光源を使うかをいちいち予測するのは事実上不可能で、仮に判ったとしても経時変化もあります。色の調整は天然光やこれに近い光の下で行うしかないのです。したがってどんな光源のしたでも「色が違う。」というクレームを避けたいのであれば水準1もしくは水準2で追加生産を避けるしか方法はありません。

 

水準4.ある程度のばらつきが許される場合。

よく普及した信頼できる塗装色規格を利用して記号で指定します。一般に上場企業や全国規模の業界団体の塗装色規格はばらつきが少ないものが多いですが、上場企業のものは建築設計事務所などのものを除き企業秘密の一部なので取引関係がないと入手が困難です。もっとも普及しているのは日本塗料工業会の標準色見本帳(以下、日塗工見本といいます。)です。加盟する全ての塗料メーカーと塗料を扱う商社や商店の大部分が常備しているので記号指定のみで色を特定できます。この見本帳は通常2年に一度更新発行されていますが、変褪色などを考え最新版で指定なさることをお奨めします。(業界も有効期限を定めています。)

<参考> マンセル指定について

マンセル色見本帳は色数が多いうえに精度、変褪色の点でもバランスがとれていますが、高価なこともあってあまり普及していないのが実情です。とくにその時々で最新の見本帳ともなると探すのが困難となり、事実上規格としては存在しないといっても過言ではありません。確かに日塗工見本は色数が数百のレベルですが、塗料製造者の立場からは色数(特に使用頻度の少ないものも含めて)が多くなればなるほど莫大な管理コストが発生する実情があります。

いちばん困るのは測色機から出てくる変換された半端なマンセル数値による表記(たとえば5.2YR7.6/1.3といったような表記)で色が正確に特定できると思っておられる方がいることです。測色機に関しては精度の問題に加えてXYZ系などからマンセル値に変換する補間数式すら統一されていないのです。加えてマンセル色見本帳には半端な数値に対応する色票が存在しないので実際に色を作るとなると目視補間による調色(塗料の色を調整すること)となってしまい、ますます精度は低下します。次に述べる水準5程度の指定ということができます。このような場合は是非とも色見本の入手(水準3)か日塗工見本による指定(水準4)をお奨めします。

 

水準5.色の印象としてだいたい同じであれば良い場合

水準4にある日塗工見本よりも精度の悪い方法、たとえばマンセル指定やインクの色見本の記号指定でも何とかなりますが、マンセル指定の場合はできれば、きりの良い値での指定(色相値は2.5刻み明度値と彩度値は1〜2刻み)。またインク色見本の場合も良く普及している色見本を選び、できれば色票を切り取って当方にお渡し頂くことをお奨めいたします。

<参考> インクの色見本による指定について

インクの色見本は色数が多くて安価なことが最大の特徴ですが改版による色の差異や、時間の経過・紫外線による変褪色(塗料よりかなり速いです。)に注意しないと、予期せぬほど色が違ってしまうことがあります。またあまり鮮やかなインクの色(たとえばDIC−150(大日本インキ)などといったような色)を指定すると、塗料では(変褪色の激しいなどの顔料を使わないこともあって)調色不能ということも起こり得ます。また網掛の影響の大きなインク色見本に色を合わせてスプレー塗装すると色としてはほぼ合っているのに人の目で見た場合の印象が全然違ってしまうことがあります。いずれにしてもインク色見本による指定では水準5ないしそれ以下の範囲といえます。

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